椿荘と冬桜

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俺の視界を彩るのは、 振袖の朱色と、その奥の白い桜 目を伏してそれらを瞳から消すと、 「言いたいことはお伝えしましたし、  後はお二人でどうぞ  ……じゃ、俺はこれで」 「――――わ、渡瀬さん…!」 ゆっくりと背を向ける俺に、後ろから焦ったような声が届く。 小さな息を吐き出し、肩越しに振り返ると、 女は言いようのない顔をして俺を見ていた。 「あの、私……っ」 “ どうすればいいの ” 声を持たない言葉が俺を捉えようとする。 だけど、 「話をする相手は、俺じゃないのでは?」 それだけ言い残すと、 視線を先へ移して足を進めた。
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