『惑星葬』

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男は黙ってビル群を見つめていると、ふと思い出したかのようにウエストポーチに入れていた旧式の音楽プレーヤーの曲をリピート再生し始めた。 幾星霜を経ても人間の感性はそうそう変わる物ではない。 デジタルの方向に音楽は進めども、ジャンルに関しては一切変わらなかった。 それが大昔の打楽器であれど。 男が聴いていた曲もその一つ。『ロック』というジャンルだった。 伝説のバンドが残した、物悲しい別れの曲。 『この曲、素敵。凄く切ないの』 自分の感情をあまり表に出さない彼女が、珍しくそう話した。 まだ男と付き合う前、夜のバーでの初デートの日に流れていた古い曲だった。 『そうかな。この争いの時代に、人の死を想起させる曲なんて縁起が悪いよ』 男はそう言って茶化したことを今でも覚えている。 そして、疲れた時に彼女が聴いて癒されていた事もまだ覚えている。 隣で瞳を閉じながら、音楽を聴いているその横顔が好きだった。 懐から取り出した彼女の写真を見つめ、感慨深く男は頷いた。 ビル群が近づくに連れて瓦礫が行く手の邪魔をする。銀白色の尾翼は戦闘機の残骸。 所詮ハイテク化しても戦争は戦争。 武装が拮抗しているなら、最後は人の手である。 幾星霜を経ても、人間の本質はそうそう変わる物ではない。
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