第1章

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私の名前は、ドットちゃん。ゆりちゃんのパンツだ。ゆりちゃんは大学1年生。ゆりちゃんと私の出会いは、高校3年生のとき。卒業旅行でパリに行くってなって、ゆりちゃんは私が眠っていたあのお店に来てくれたんだ。  あのお店のことは好きだった。おしゃれな若者が多い古着の町にあった。大きめのウィンドウに色とりどりの折り紙や小さな旗と一緒に私の友だちが綺麗に飾られていた。ゆりちゃんがお友だちのマキちゃんと、セーラー服のスカートを翻して明るい笑い声とともに入ってきたんだ。ゆりちゃんは店内を、誰かを探すように見渡していた。マキちゃんはとにかく活発な子で、セクシー系のブラを胸にあててみたり、かと思うと部屋着コーナーでちょっと露出度の高いキャミソールを見ていた。後で、ゆりちゃんがマキちゃんと電話しているのを聞いてわかったんだけど、そのとき、マキちゃんは一世一代の恋をしていたんだって。「恋」ってなんだろうね。難しいな。何やらマキちゃんは電話で、泣いていた。つい最近のことだよ。電話口から漏れるすすり泣きと、「本当に大好きだったんだって、本当に大好きだったんだなって、今頃わかったなんてもう笑えちゃうよね」って言葉が忘れられない。  ゆりちゃんの話に戻るね。ゆりちゃんは、とにかくキョロキョロしていた。私の友だちのストライプちゃんや、セクシーちゃんを引っ張りだしては「うーん」って首をひねっていた。私はドキドキしながら、ゆりちゃんが私を手にとってくれるのを待っていた。マキちゃんが「ねえ、ゆり。もう気に入ったのなかったら別のお店行こう!」って、ゆりちゃんのかばんについたキャラクターのキーホルダーをついっと引っ張った。ああ、やっぱり今日もお店でお留守番か、と思ったその時、ゆりちゃんが「これ!」って言った。そう、その「これ」が私、ドットちゃんだったんだ。  その日から、私はゆりちゃんのお気に入りになった。一緒にパリにも行った。ゆりちゃんが、覚えたてのフランス語で、スイスイ歩くフランス人の女性に「エクスキュゼ・モア」 って話しかけたのも知ってる。ゆりちゃんの勇気ある行動に、ゆりちゃんのパンツである私も関心した。
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