序章:実によくある至極平凡かつ無個性きわまりない普通の死。

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 『無能』。  能力、才能の無いこと、役に立たないこと。  また、そんな性質を持つ誰かを指して蔑む時に用いられる言葉。  そして僕は、その言葉がぴったりと当てはまるほど、昔からなにをやっても駄目な人間だった。  成績は、常に学年最下位。いくら頑張って勉強してみてもそれはほとんど変わることはなかった。  運動も、高校1年生男子なのにもかかわらず、50m走は10秒台。たとえば持久走だってボール投げだって幅跳びだって、どんな種目も、学年でぶっちぎりの最底辺。  趣味もそうだ。  どんなものでも、それをどんなに前から始めても全く上達せず、挙げ句は後から始めた人にまで追い抜かれてしまうという程に、飲み込みが悪い。  ずっとそうだったんだ。  好きな事に本気で取り組んでも面白いぐらいに上手くいかなくて。  嫌いな事に最善を尽くしても清々しいぐらいに上手くいかなくて。  大事な事に全力を出しても笑えてくるぐらいに上手くいかなくて。  些細な事に一生懸命になっても潔いぐらいに上手くいかなかった。  そんな、救いようがないくらい──僕は『無能』だった。何一つ才能が無かったんだ。  あ。ところで、なぜこれらが過去形なのかっていうと。  答えは簡単。  学校帰りの僕の目前には、すでに大型トラックという『死』が迫ってきているからだ。
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