序章:実によくある至極平凡かつ無個性きわまりない普通の死。

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 刹那。  グシャッ! と。  音で表すならそんな音を発しながら、僕の身体は巨大な鉄の塊にはね飛ばされ、大きく宙を舞った。  そして、地に落ちた。  ──痛い。  大声で泣き喚いて叫び散らしたくなるぐらい痛い。  まるで全身が外部から潰されているかのような、地獄の痛み。  まるで全身を内部から焼かれているかのような、煉獄の熱さ。  でも、何故だろう。 (……あーあ。もう、これはどうやっても助からないだろうなぁ……。死んだな、僕……)  今の僕は、そんな事をただ自然に平然と、漠然と漫然と思っただけで。  恐怖も悲愴も、そして生への執着もなかった。 (……そういえば、僕が死んだらどうなるんだろう)  ……いや、考えるだけ無駄、か。  僕には友達なんて一人もいなかったんだし。  そもそも──道端の石ころをわざわざ蹴飛ばしていかないのと同じことで──、何もかもが人より劣る僕は、だれからも相手にすらされてなかったんだ。  「どんな人間が死んでも、世界は変わらない」。そんな言葉をどこかで聞いたことがあるような気がするけど、だれかが死んだら、少なからずその人の周りの人の“世界”は変わるだろう。  けど、だからこそ、僕の場合は「変わらない」という傾向が相当に顕著だというだけのことだ。  僕が死んでも、おそらく僕の家族以外は誰も悲しまないだろう。  もっとも、家族すらも悲しんでくれるかわからないんだけどね。
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