序章:実によくある至極平凡かつ無個性きわまりない普通の死。

4/4
前へ
/279ページ
次へ
 何にせよ、だ。無能な僕も最後の最期ぐらいは、自分が犠牲になることで、将来の有る少年の命を助けられて良かったかな。  今となっちゃ、「僕はどうして彼を大型トラックから庇ったのか」なんてもう自分でも解らないけれど。僕と少年との価値を天秤にかけたら、秤は少年に傾くんだし。  だから、これでいいんだ。  これで、よかったんだ。 (なに一つ楽しくない人生だったけど……ま、できれば僕の分まで長生きしてね、少年……)  それを最期に。  極限まで遅く感じられる時間の流れの中──集まりはじめた野次馬に見送られながら──血だまりの中で僕の意識は永遠に途絶えた。
/279ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1382人が本棚に入れています
本棚に追加