裁縫針

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 2008年のある日。  母が、妹の保育園で使うものだか靴下だかを縫っていた時のことだったと思います。僕は近くでテレビを見ていました。  暫くすると、母が針を落としたのか、ごそごそと立ち上がったり床に手をぺたぺたと当てたりし始めました。  それから五分くらいして、 「……あれ? ねえ、ちょっと」  と、声を掛けられました。  何?と母へ目をやると、針が見つからないから危ないし、探して。と頼まれました。 「今これを縫おうとしてね、ぽろっとここで落ちちゃったのよ。だからこの辺にある筈なんだけど」  母は、防音シート(絨毯のようなもの)を敷いた床に正座をして、結構低い位置から落としたことを僕に説明しました。 「(シートの)下じゃないの? 服かそっち(縫っていたもの)についてるとか」 「そうだと思ってさっきからこの辺捲って退けたり、服とかも見てるんだけどね。全然見当たらないの」  手を沿わせても当たらないし、と広範囲に渡り床へ手をさらさらと滑らせる母。  その時は、見落としたか、どっかに飛んだんじゃないの?と思いながら僕も三十分程探して結局見つからずに諦めました。  それだけ探しても見つからないなら、まあ大丈夫かなと思ったんです。
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