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ポップコーンと二人分の飲み物を片手で持った誠一は、入口で配られているひざ掛けを一枚手に取った。
彼の職業はウエイター。
特に意識することなくひざ掛けを左腕にかけ、ポップコーンも飲み物もこぼさず両手で持ち直す。
隣で一連の動作を見ていた綾が感嘆の声をあげた。
「井上さんにとっては当たり前の事なんでしょうけど・・・やっぱりすごいですね」
誠一は、照れくさそうに微笑む。
「職業病みたいなものだから」
来るもの拒まず去るもの追わず。
スマートに一夜限りの関係を楽しむタイプだったはずなのに。
(顔赤くなってないだろうな?)
彼女の何気ない言葉ひとつで、自然と鼓動が速くなってしまう。
映画が上映される3番スクリーンの中に入り、自分達の座席に向かう。
今日はあえて一般席ではなく、エグゼクティブシートを選んだ。
座り心地の良さそうな椅子を見た綾が表情を輝かせる。
「私エグゼクティブシートなんて初めてです」
「俺も初めてだよ」
席の間にある専用の机にポップコーンと飲み物を置いた誠一は、ひざ掛けを彼女に向かって差し出した。
「はい、どうぞ」
綾は驚いたのか目を丸くする。
「これ・・・わざわざ私のために取ってくれたんですか?」
「冷房効いてるから冷えるといけないと思って。余計なお世話だったかな」
「いいえ、気遣っていただいてありがとうございます」
彼女は首を横に振り、柔らかな笑顔を浮かべた。
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