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上映後誠一と綾はロビーのソファに座り、映画の感想を語り合っていた。
「期待以上に面白い映画だったな」
映画に夢中になって結局減らなかったポップコーンをつまみながら、誠一が言った。
「大画面で見て良かったって思う映画でしたよね」
綾は手に取ったポップコーンを一つずつ食べながら相槌をうつ。
「巨大ロボの出撃シーンとか最高に燃えたよ」
そう話す誠一の目が、いつもより少年っぽく見えて、綾は微笑ましい気分になった。
つい見とれていたせいで、うっかり彼と同じタイミングでポップコーンに手を伸ばしてしまい。
「あっ、ごめんなさい」
指先が触れあった瞬間、弾かれたように綾は手を引っ込めた。
「別に謝るほどの事じゃないから」
誠一は苦笑いした後、綾の口にキャラメルポップコーンを一粒押し込む。
(勘違いして流されたらダメ。井上さんとの事は慎重に考えなきゃ・・・)
さりげなく指で唇に触れる仕草にときめきそうになった綾は、心の中で必死に唱えた。
「君にだけは優しくしたいんだ・・・好きだから」
あの言葉に嘘はないと思う。
二人で会うのは、いつも「ルナ・ノーチェス」以外の場所だけれど。
自分も仕事で忙しい筈なのに、こまめにメールを送ってくれる。
他愛もないやり取りが嬉しくて。
彼の隣にいると、楽に呼吸が出来る気がするのも確かだ。
それでも自分は、未だ素直に彼の好意に応えられていない。
―もう二度とあの時のような思いはしたくない。
その気持ちが強すぎて。
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