運命の人

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「・・・未だ手も繋いでおりません」 誠一はため息混じりに答えた。 今まで女性とは後くされのない一夜限りの関係しか結んで来なかった。 その経験は本気で好きになった相手との距離の縮め方にすら、全く役に立っていない。 「弦くらい素直だったら良かったのにって思ってません?」 蝶ネクタイを結びながら修治がボソッと呟く。 (他人の心読んでくんじゃねえ!) 誠一は思わずムキになって言い返した。 「冗談だろ、あいつの真似なんか出来るか!」 ―本当はちょっと、あの素直さが羨ましかったのだが。 最近、ピアニストの火野弦に可愛い彼女が出来た。 恋愛に縁がなかった彼の身に一体何が起きたのか、内心興味津々の店員達に詰め寄られた彼が放った一言は。 「勢いで好きだって言っちゃって、流れで付き合うことになった」であった。 先に本命の彼女を作られた上に、もう恋愛初心者だからとからかって遊べない。 誠一のささやかな(どうでもいいと言われてしまえばどうでもいい)自尊心がズタズタになった瞬間だった。
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