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「大体、店に来てもらえばもっと接点増えるんじゃないですか?」
修治の至極まっとうな意見を、誠一はあえてはぐらかした。
「一人の女性に夢中になるキャラじゃないんで」
(それにあいつとばったり会われるのも嫌だし)
"奥さんも、お子さんもいる人だって、分かってました。分かってて止められない自分が嫌だった"
以前彼女と一緒に来店していた不倫相手。
話したくない事だと思ったので、経緯について彼女に訊ねた事は一度もない。
もしも二人が店で再会したとしたら、今の自分は確実に(仕事に支障をきたすレベルで)平常心を失うだろう。
公私の区別はきちんととつけたい性分なので、そういった事態は正直避けたいところだ。
「その変なこだわりを捨てられればもっと楽になると思うんですけどね」
確かに自分なりのこだわりを捨てれば、下手な駆け引きなどせずガンガン直球勝負出来るのかも知れない。
だが、今は彼女が根負けするまで好意を伝え続けるべきではないとも思う。
出会ってから過ごした時間。
相互理解。
自分という人間に対する信頼。
足りないものが多すぎる。
「まあ、彼女がちゃんと振り向いてくれるまで気長に待つさ」
修治は穏やかに微笑んだ。
「何か話したい事がある時は声かけて下さい。借りはちゃんと返したいんで」
そこまで大きな貸しを作った訳ではないが、相変わらずの律儀さだ。
誰かと深く関わる事で、変わるものもあれば変わらないものもある。
「おう、ありがとな」
ならば自分は自分らしく、少しずつ変わっていければいい。
―いつか彼女に想いが通じるその時まで。
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