一、殺し屋殺し

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ヌァン・サンソンは殺し屋殺しだ。名は体を表す。つまり、簡単なこと。 ヌァン・サンソンは人殺しだけを殺す。自己矛盾を抱えた罪喰い。彼の理解者は彼の拳銃だけだ。 目の前の扉が、彼の体温に反応して滑らかに、オートマチックに両開く。ヌァンは開かれた白い部屋に足を踏み入れた。 部屋の奥はまったくの暗闇で、それは崖に繋がっていてそのまま足を進めたら転がり落ちてしまうのではないかと、ヌァンは錯覚した。 白色から想起されるべき清潔さはそこには微塵もなく、薄暗い、いやらしさが充満していた。 ヌァンは二歩目を踏み込む。 その暗がりから、しゅっとナイフがヌァンの首元を狙って突き出される。 技術に裏打ちされた愚直な一撃。そんなものを初発で食らうほど、ヌァンはバカではない。 手首を取って、刃先を逸らすように脇に捻り込む。それに引っ張られてナイフの持ち主が暗がりから、引きずり出された。 それは男だった。手術をしたのだろうが、鼻が根元の方で折れ曲がっているのがわかった。 特殊部隊上がりか、とヌァンの頭の奥底でヌァン自身達の一人が呟いたが、そのイマジネーションは目の前の敵をいかに倒すか、という他の大多数の自我による計算で押し潰された。 その一瞬でヌァンはそのまま、男を拘束することに決めた。 流れで足を払い、男の体を崩す。同時に手を捻り上げてナイフを奪い取る。ヌァンの腕は男の体に絡み付いてサブミッションすると、動けなくなったその首にナイフを押し当てた。 だが、喉笛を切り裂きはしない。 声帯を壊したら、大切なことが訊けなくなるから。 「お前、人を殺したことは?」 諦めに満ちた男の体に弛緩が広がる。 「勿論。お前が記念すべき百人目だった」 ヌァンはナイフを引いた。血がスプリンクラーのように噴き出て、白い部屋に暴力的な紋様を描いた。
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