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「…いません…だって、僕の周りには…!」
誰もいないんです。
そう、言おうとした。
「俺がいるじゃない。」
「…え?」
驚いて、思わず聞き返してしまう。
「俺は、たまたま外を見て、君がうずくまって泣いているのを見て、心配したよ?店に入れてあげて、こうやって話を聞いてあげることもできるよ?それって…もう、君は一人じゃないって、ことじゃないか。」
そして、その人は、太陽みたいにあったかい笑顔を、僕に向けた。
「俺は…まぁ、偶然君と会ったわけで、強い繋がりなんてないかもしれない。…でも、確かに、俺たちは出会って、こうやって話してるでしょ?君の気持ち、俺に話せてるでしょ?ね?…俺でよければ、いつでも話聞いてあげるから。…また、寂しくなったら、来ればいいんだから。」
そう言うと、その人は席を立ってカウンターの中に入っていった。
「せっかくだし、何か食べる?俺も今から簡単に飯食べようと思ってたんだ。」
僕の方を見て、また優しく笑ってくれた。
心に刺さっていた氷の破片が、溶けていくようだった。
なんて、温かい人なんだろう。
なんて優しくて…笑顔の素敵な人なんだろう…
この人になら…
何でも話すことができそう。
笑うことができそう。
そう思って、ふと、自分の手を見た。
…あ?!
赤い糸!
よく見ると、それはその男の人に繋がっていた。
なんで?!
さっき、別の人と繋がっていたはずなのに…
ーー『確かに、俺たちは出会って…君の気持ち、俺に話せているでしょ?』
…もしかして。
僕が、相手に心を開かなかったから?
人に気持ちを、伝えようとしなかったから?
それで…赤い糸が、なかった?
「ねぇ、パスタとかでいい?」
パスタの束を持って、僕に問いかける。
「か、構いません…」
僕は、少しためらった後、口を開いた。
「あ、あの!」
「ん?」
「…な、名前、教えてもらっても、いいですか?」
少し驚いた顔を見せた後、その男の人は
さっきみたいに太陽みたいな眩しい笑顔を僕にくれて。
「いいよ。もちろん。」
まずは…
まずは名前を聞くところから始めよう。
偶然出会ったアナタと繋がったこの赤い糸を
確かなものにするために。
Fin.
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