第1章

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 機種は同じものだったので、見た目では判断できないだろう。 「これお前のだろ」 「おぅ。ご明察」 「俺様の返しやがれってんだ!」  やっぱりすぐに分かったか。溜息を零しながら端末を取り出して、電源をつける。  そして俺が映ってる画面をファーストに向けて「何で俺が映ってんだ?」と、尋ねるとファーストルパンは答えようともせず、ただ「返せ」を繰り返す。 「……あっそ」  そんだけ返してほしけりゃ、返してやらぁ。そういって端末をベッドの上に置いて立ち上がって、自室を後にした。  ――あんなモンより、俺をみろよ。  そんな心中の呟きなどファーストルパンには聞こえない。  **  それから数日間、ファーストルパンは部屋に現れなかった。  アジト自体にはいるのだけど、自室に籠もっているのか風呂やトイレや食事以外で部屋から出てきた様子はない。  時々出てきては「飲みに行って来る」と言うだけであって、それ以外の会話はここ数日、全くしていなかった。  ――早く会いてぇなぁ。  独り、誰も居ないアジトの中で思った事だった。  ** 「いてぇな! もっと優しくしろって!」 「文句あんなら自分でやれ」  何をしたらこんなに怪我をするんだと思いながら、包帯を巻いていた。  いつだってそうだ。爆弾抱えた奴の傍に行って怪我をして帰ってくるような、無茶をする奴なんだ。  考え方が同じなのだから、俺もいつかそうなるのだろうかと思っていると、不意に「おめぇさんが、そうやって文句言いながら手当てしてくれんのが、俺の楽しみだってつったら、どうするんだよ?」と問われた。  何をバカな事を言っているのだろうかとその時は思った。怪我しないのが一番良いに決まってるだろ、そう答えてやりたいのだが、求めている回答とは違う事は知っていたので「さぁな」と短く返事した。  俺にそんな事を聞かないでくれ。    あぁ、そんな事言ってた日もあったけ。そう思いながら目が覚めた。  そんな昔の夢など、果たして覚えているのかと思いつつも、夢で見たことで、覚えていなくてもこうやって夢という形で出てくるのかと、ぼんやり考えた。  あれから何日が経ったのだろうか、最後に聞いた「飲みに行って来る」という声は、再びこのアジトで聞くことはなかった。
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