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どうせどこかの女と飲んでるか寝てるかだろうと分かってはいても、床に散らばった服装を見てその考えが消えうせていく。
どこぞの女と寝てるだけ、それだけなのだが、自分の着ている服と同じ色の衣類が懐かしく、そして恋しく思った。
「らしくねぇ……」
小さく呟いてみても、意味が無かった。だから、そのまま寝てやろうと、帰ってくるまで寝て過ごして、酒でも煽って、仕事なんかいつだって良い、金はまだ残ってる、アイツが帰って来るまでは当分仕事しないと決めて、寝返りを打ったその時だった。
――ギィィ。
遠慮がちに玄関のドアが開けられた。帰ってきた、すぐにそう思った。
敵襲かもしれないなんて微塵も思わない。次第にコツコツと廊下を歩く音がする。あぁ、久しぶりだ、おめぇの足音を聞くのは。
声を掛けるべきなのか、それとも大分飲んでるだろうから寝かすべきだろうか、二択を迫られた。
声を掛けたら立ち止まるだろう、声を掛けなければ部屋に戻るだろう、だが、すぐに出ていくことも想像できる。どうすれば良い。そんな事を思っていると、向こうから「起きてるか?」と声が掛かった。
丁度、足音が止まって自室の前に居ることはすぐに分かる。
「あ、まぁ……。今、目が覚めた」
嘘ではない。嘘ではないのだけれど、どこかその瞬間重たい空気を感じた。
体を起して床に散らばった服を手に取り、もう何日も洗濯もしてないなと思いながらも同じ服を着る。
どうせ風呂にも入ってないんだ、洗濯してない服でも同じだ。
「わりぃな。実はよ……」
一旦区切られた言葉に嫌な予感がする。出て行くとか、もう来ないとか、女と組むとか、そういった事が頭から離れない。着替えの速さは至って普通だろう。女じゃないし、それに気にしてもしょうがない、だからシャツを着て、スラックスを穿いて終る。
ジャケットを羽織ったって、ネクタイなど締めたって何の格好付けにもならない。
「好きな奴が出来ちまったんだ」
グサリ、腹にナイフを刺されるような痛みが胸に走った。抉られているような、そんな感覚になりながらも、平常を保つ為にドア越しだというのに、口角を上げて「へー、良かったじゃねーの。一生大事にしてやりな。峰不二子みたいに裏切りタイプかどうかは知らねぇけどよ」なんて余裕たっぷりみたいな、返答をした。
一体どこの誰だって? コイツを奪おうとしてやがんのは?
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