第1章

5/7
前へ
/7ページ
次へ
 発端は自分の所為だと分かっている。あの日、無理矢理端末の中を見てやろうなんて思わず、理由も聞かずに好きにさせていれば、コイツが飲みに行く事も、好きな奴ができたという報告もなかったんだ。今更後悔しても遅いのだが。  好きにさせていれば良かったじゃないか、俺の部屋を使おうが、そんなのは別にどうでも良かったじゃないか。俺がコイツの部屋を借りてベッドで寝ていたって良かったのによ、そんな遅い後悔をしながらファーストにどんな表情でこれから接したら良いんだ。  俺は絶対、お前に悪態をつくだろう。それぐらい俺は黒い奴なんだ。 「珍しいよな。お前からそう言うこと言うなんて。大体は女がお前に惚れたとかが多かったのによ。俺にじゃなくて、お前の『相棒』の次元大介にでも言ってやった方が良かったんじゃねーのか? 俺とお前は『只』の、ビジネスパートナーだしよ」  只のビジネスパートナー、相棒でもなければ、友人でも、恋人でも愛人でもない。ただのパートナー。どこどこの宝石がどこどこに運ばれるらしい、そういった情報を交換するだけの、関係だ。  俺には相棒と呼べる奴がいない。コイツの相棒が次元大介という名だったので、多分、俺の相棒も次元大介になるんだろう。だが、相棒という線まではいっていない。   「ちげぇよ」 「何が違うって?」  俺とお前は只のビジネスパートナーじゃねーよ。ドアに凭れる音と共に、ファーストの声がした。  何言ってんだよ、ただのパートナーだろ。それで良いだろ、そういう事にしておいてくれよ。 俺が、俺が気付いてしまったことに、気が付きたくなくて、目を背けていた事に、もう一度向き合えってのか? 無理だ。嫌だ。きっと俺はお前を独占するようになる。お前という「ルパン三世」を俺だけの物にしたくなる。  俺とは違って、陽気で、考える事もバカらしくて、でもそこが似てて、似すぎていて、そんなお前に俺は、惚れちまったんだ。  お前が居なくなった数日間、ずっとお前のことしか考えていなかった。今頃お前はどうしているのか、お前はどこの誰と寝てるのか、はたまた仕事してるのか、そんな事ばかり思っては、考えたくなくて寝る事にした。  ただ睡魔などすぐにやってこないから睡眠薬に頼ったりした。寝ていればいつか帰ってくる。 その間に寂しい想いなんてせずに済む、そう思っていた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加