たとえわたしがいなくても

2014年 12月24日

クリスマス･イヴのこの日、恋人たちが死に別れる。

けたたましいブレーキの音。衝突音。
横転したトラック。

地面に広がる赤。

横たわる彼女は、目を開いているものの意識は朦朧としていて、誰もが限界が近いことを悟っただろう。

ただ、一人だけは諦めなかった。

市川功太

彼女──本谷詩子の夫。

「詩子！もうすぐ救急車来るからな…頑張れよ……！」

血まみれの詩子を抱き締めながら、必死に呼び掛け続けた。

しかし、彼の思いは届くことはなく

彼女はもう二度と功太に花が咲くような笑顔を向けることはなかった。
もう二度と、鈴の音のような声で功太に喋りかけることはなかった。