たとえわたしがいなくても

5/6

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
──功太。 風の音に混じって微かに聞こえた。 その鈴の音のような声は、聞き間違えるはずもない詩子のものだ。 「詩子……?」 ──泣かないで…功太のせいじゃない。 「違う……俺のせいだよ。俺があのとき!」 ──もう、いつまでもそんな変えられもしないことを嘆かないの!功太が私のこと思って泣いてくれるだけで、私は嬉しいの。 顔を出した月に手を伸ばすと、ふわりとカーテンが揺れた。 伸ばした手に、温かいなにかが触れる。まるで功太の手を…心を、包み込むように。 「………っ」 ボロボロとこぼれ落ちる涙を拭うこともせずに、子供のように泣きわめいた。 ──今度は…私のことを思い出したときに笑ってくれるといいな。私との別れが、功太のなかに少しでも優しく残りますように………… ──功太、愛してる 気付けば手のひらを包み込んでいた温もりは消え、月だけが、まるで功太を見守るように輝いていた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加