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──功太。
風の音に混じって微かに聞こえた。
その鈴の音のような声は、聞き間違えるはずもない詩子のものだ。
「詩子……?」
──泣かないで…功太のせいじゃない。
「違う……俺のせいだよ。俺があのとき!」
──もう、いつまでもそんな変えられもしないことを嘆かないの!功太が私のこと思って泣いてくれるだけで、私は嬉しいの。
顔を出した月に手を伸ばすと、ふわりとカーテンが揺れた。
伸ばした手に、温かいなにかが触れる。まるで功太の手を…心を、包み込むように。
「………っ」
ボロボロとこぼれ落ちる涙を拭うこともせずに、子供のように泣きわめいた。
──今度は…私のことを思い出したときに笑ってくれるといいな。私との別れが、功太のなかに少しでも優しく残りますように…………
──功太、愛してる
気付けば手のひらを包み込んでいた温もりは消え、月だけが、まるで功太を見守るように輝いていた。
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