第1章

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空の声が襖の向こう側から聞こえてくる。ゆっくりと焦らすような口調に俺はイライラした。襖を開きたくなる衝動に襲われる。 「何人も、何人も、罪人の首を切り落としたそうよ。中には冤罪で殺されちゃった人もいたみたいね。呪いというのなら、流れた血と、そこに染み込んだ悲しみよね。花が咲くように呪いが芽吹いたのよ」 「空、今はそんなこと話してる場合じゃないだろ!!」 「なぁに、佐次、いきなり怒鳴るなんて怖いわ。ここに居れば安全よ。首無し達だって手出しはできない。そもそも、貴方を呪いから助けていたのは誰だと思っているの?」 空は、呪いについて知っていたんだ。知っていて見て見ぬふりを続けていた。どうして、そんなことができるんだ。助けられる命だってあったかもしれないのに、どうして!! 「佐次、ねぇ、佐次、私は貴方の顔が見たいわ。襖を開いてこちらに来て、佐次、ここに居れば安全なのよ。もう襖越しに話す必要なんてないじゃない。さぁ」 安全? 本当にそうなのか、信じられないけれど、空をこのまま放置しておくわけにもいかない。他の人達は救えなくても空だけは救うんだ。 襖の戸に手をかけた、なぜか指先がカクカクと揺れていた。どうして? ただ、ここを開けばそれでいいのに、どうして俺は迷っている? 「佐次、佐次、さぁ、早く。顔を見せて、こちらに来て」 襖の隙間から空の声がする。開く、それだけでいいんだ。 『やめなさい!! その戸を開いてはダメよ!!』 背後から怒鳴り声が響き、弾かれるようにして俺は離れ、そして数個の生首が襖に叩きつけられた。 メシッメシッと音を立てて、生首が襖に大穴を開けて、中から数十本の腕が生首をめちゃくちゃに引き裂いた。 「これが呪いの大本、屋敷を支配していた本体」 少女が降り立つ、片腕には客が持ってきた骸骨が抱き抱えられている。 「ヒドいわ。もう少しで佐次の頭部がもぎ取れるはずだったのに、残念だわ」 空の声だったけれど、そこにいたのは首のない少女だった。破られた襖の隙間からこちらを見ている。いや、見えているかどうかは、とても怪しい、なぜなら彼女にはあるべき物がなかったからだ。 空には、頭部と呼べるものがなかった。そんなのでどうやって声を出しているのかも不思議だったが、さらに異様な光景が広がっている。機織りの音だと思っていたが、そうじゃなかった。むしり取られた頭部がカタカタと、
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