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仮音が言った。
「そうです。呪いに支配されていた、私は死にながら、生きる屍になりました。空が使役するのは肉体のほうで、生首はそのついででしかなかったんです」
ついでと言っても、首無し達の命を繋ぎとめておくためにあった。空の気まぐれで頭部を破壊されれば、もぎ取られた肉体も死ぬ。目には見えない透明な糸で繋がれているようなものだ。
「呪いから、遠ざかれば、遠ざかるほどに支配は薄れていくかわりに、肉は腐り、この姿になっていきました」
その顔には肉がない、目がない、鼻がない、口がない、骸骨になった彼女からはやり遂げた人の表情だ。
「喋る骸骨となって、数多くの人間達の手を渡りました」
その道中は、過酷の一言に尽きるだろう。死ぬこともできず、骸骨になって、忌避の目で見られ続ける。
「けれど、貴方に出会うことができたから、私は…………」
ボロボロと崩れていく、呪いの本体がなくなったから、彼女の長い人生も終わりになった。
「…………一度でいいから、貴方を抱きしめてあげたかった」
身体をなくし、呪われた彼女が、ここまでやってきたのは、息子に出会うため。
「これでいいか?」
骸骨になった母親を抱きしめた。腕の中で少しずつ崩れていく。
「ありがとう、貴方は……」
パリッと音がして、氷が砕けるように彼女が消えた。腕の中には、なにも残っていない。しょせんは幻だった。
「呪いは、喪失」
仮音は、日本刀を鞘から抜いていた。
「貴方が、望むのなら、ここで命をたつこともできる。呪われた人生に終わらせてあげられる」
呪われた人生か、確かにそうかもしれない。仮音に頼めば簡単に殺してくれるだろうけれど、
「いいや、いい。ここで死んだら、きっと怒られる」
もう、見てみぬふりも、知らないふりも、聞こえないふりもできない。目の前に広がる現実と向き合わなければならない。
「俺は、俺なりにやってみるよ」
母は、消える間際にこう言った。
『生きて』と、ただ、それだけを言った。
「そう、ならいい」
「お前はどこに行くんだ?」
「私のやることは変わらない、呪いを斬る。ただ、それだけ」
チンッと鞘が鳴ったとき、仮音の姿はどこにもなかった。残ったのは廃墟になった屋敷と俺だけ、他には何もない。
「さーて、頑張るか」
けれど、空に登る太陽はとても綺麗だった。
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