第1章

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呆れたような言葉にも、もう慣れっこだ。俺はハイハイと適当に返事をしながら襖に背を預け、外を見た。 不思議なことに、襖を開けようと思ったことは一度もない。中にいる空のことが気にならないと言えば、嘘になるが、開いた瞬間、この関係が終わってしまう気がして俺は襖を開けられない。なんとなく沈黙が嫌で、 「じゃあさ、空も面白い話、してくれよ」 と言った。機織りの音がやんで、少し考えるような沈黙が過ぎて、空が口を開いた。 「骸骨」 と一言、呟いた。 「骸骨?」 俺が聞き返す。面白い話に、骸骨はないだろうと思うが、話の腰を折りたくなくて俺は聞き返す。 「そうよ。骸骨、ねぇ、佐次。骸骨はなぜ、笑うのかしらね」 「どういう意味だ?」 「よく、あるでしょ? 怪談や怪異で笑う骸骨、カタカタと骨になっても笑って、話す骸骨、どうして、骸骨は笑うのかしらね」 「………さぁな」 俺は言う。白骨化した頭が、カタカタと音を立てて笑う光景は、はっきり言って異様だ。 「死んだあとも、笑う、話すなんて、とても馬鹿げてるわよね。そんなことしても。どうにもならないのに、そんなの無駄の一言に尽きるわ」 突き放すように、空は言うとカタカタと機織りの音が響いていくが、ほんの少しだけ苛立ちが混じっているような気がして、一回、まばたきする。視界がドロリと変化して、目の前に大柄な女が俺を睨みつけていた。彼女は、この屋敷に雇われた使用人の中でも、古参と呼んでいいほど長いことやっていて、使用人の中でもリーダーで、みんなからはおかみさんと呼ばれていた。 「佐次っ!! あんた、いつまで玄関を掃除してるんだいっ!! さっさとこっちを手伝いな!! 今日は旦那様のお客様が大勢くるんだよ。さっさと準備しとかないと」 「あー、ハイハイ、わかってますよ」 どこまでも続きそうな、おかみさんの小言に適当に返事する。仕事は完璧だし、尊敬しているが、小言が長いことがたまに傷だ。おかみさんは、まだ、文句を言いたそうだったが仕事を優先したくなったのか、口早に指示をだしてくる。 夜になった。大広間に旦那様の客を出迎え、酒を呑んでどんちゃん騒ぎ、使用人の俺達は廊下を行ったり来たりを繰り返して、皿を下げたり、お酒のおかわりを持って行ったりと慌ただしく働いていると宴会も、終わりにさしかかった頃、大広間の隅っこに、一人の女の子が座っていた。
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