第1章

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それは客の名前だった。骸骨は、さらに続けて言葉を放つ。 「私を買い取るために、多額の借金を繰り返し、売りつけることで貸しを作ろうとした。全ては金が目的」 旦那様が、ギロリと睨みつけ、血にまみれたビール瓶がテカテカと光った。その光景を遠くから見ていた男がゲラゲラと笑う。 「松葉拓郎(マツバ、タクロウ)の鞄の中には麻薬が入っている。宴会の最中、トイレにたつふりをして、金目の物を盗んだ」 ゲラゲラと笑っていた男が、松葉拓郎なのだろう。笑顔をひきつらせて、あたりを見渡して両手を前にだした。 「待て待て、俺はそんなことしてない」 「嘘をつくな、お前は昔から」 と松葉を責めるように、大柄な男が詰め寄り、鞄に手をかけるが、 「市原啄木(イチハラ、タクボク)は小学生相手に性的な行為を働き、写真を撮って脅迫している」 と骸骨が、この場にいる者の秘密をどんどん語っていく。不倫、横領、詐欺、嘘、盗撮、売春、万引きと一つでも世間に知れ渡れば逮捕、間違いなしの情報ばかりが骸骨の口からペラペラと出て行く。さらに恐ろしいことは、ここにいる連中が猜疑心に陥って、争い始めたことだ。 事実なのか、それとも嘘なのか、もう誰にもわからない。使用人達が仲裁に入るが、骸骨は使用人達の秘密すら暴いていく。暴力と怒号が渦を巻き、つかみかかっては殴り、食器が割れ、テーブルがひっくり返る。ちょっとした火種が大きな炎となって広がっていく。どうしたらいい? どうしたらと迷うが、一度、始まってしまった喧嘩は収まるしか待つしかない。 俺は、ただ、その場に立ち尽くすしかない。その時だった。客の一人が棒を持ち上げ、骸骨、目掛けて振り下ろした。喧嘩の中、飽きることなく他人の秘密を叫び続けていた骸骨を叩き割ろうとしたのだろうけれど、 「やめろっ!!」 旦那様と女の子の声が重なり、旦那様が骸骨を覆うようにして立ちふさがり、振り下ろされた棒が、旦那様の頭部を直撃した。ビール瓶で殴られた時よりも、さらに重たい音が大広間に鳴り響き、そして、殴りつけた客の頭がポンッと栓でも抜くように、首から離れて、噴水のように首から血が吹き出す。カタカタと身体を痙攣させながら客の身体がドサッと倒れ込む。鮮血を浴びた客や使用人達が悲鳴を上げ、さらに続けて血を浴びた、客達の頭がボールのように吹っ飛んで、大広間を真っ赤な血で染めていき、数十個の生首がゴロゴロと転がった
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