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「俺は失うのが怖かった。今まで何不自由なく暮らしてきた。ほしいものは何でも手にいられた」
だから、それを脅かしてしまう存在を無視することはできない。問題は時間が解決してくれると言うけれど、これは時間の経過と共に悪化していく。
「殺すつもりはなかった。ただ、腹の中にいる子供を産まなければそれでよかった。流産でも、なんでもしてくれれば都合がよかった」
それは、父親としてのセリフでは、最低の一言に尽きただろう。クズだ。俺は内面から湧き出る不快感を我慢していた。目の前にいる女の子は、日本刀の切っ先を旦那様に向けたまま、動かない。
「だが、あの女は、断固して子供を殺することを拒んだ。身よりのない孤児に散々、世話をしてやったくせに、その恩を忘れ、俺のもとから逃げ出していた」
旦那様は言う。正直、今すぐ逃げ出してしたいたいのに、旦那様の話から耳をそむけることができなかった。
旦那様が話していることは、俺とは無関係だ。なのに、目をそらして、耳をふさぐことができない。それに旦那様はいったい誰に話しているんだ? 日本刀を持つ少女? 首を落とした生首の客? それとも旦那様が抱える骸骨?
────────いいや、違う。
旦那様は、ずっと歪んだ笑みを浮かべながら俺を見ていた。
「女を見つけたとき、そいつは一人の男児を産んでいた」
まさか、嫌、そんなわけない。俺は孤児だし、親の顔を知らない、子供の頃から屋敷の人達に育てられてきたけれど、そんな都合のいいことがあってたまるか。
「お前だよ。雄太郎」
「貴方は、この人の母親から奪った。人質にとった」
少女が言う。相変わらず日本刀の切っ先を向けたままだ。
「待って、待ってください。そんないきなり過ぎて」
「考えたことはなかったか? どうして、孤児の自分が、この屋敷で育てられてきたか」
「…………」
考えたことはないと言えば嘘になる。普段は考えないようにしていたが、一息ついたときに考えてしまうけれど、
「じゃあ、なんで今まで黙ってたんですか。教えてくれたって」
親子なら、血の繋がりがあるのなら、歪な関係でも教えてくれたってよかったはずだ。
「よけいなことを話して、秘密を外部に持って行かれたら困るからだ」
ピシャリと答えられた。わかっていた、この人は自分しかない。血の繋がりがあっても、他人事でしかない。
自分のことを、守れればそれでいい。
長いこと、
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