第1章

9/16
前へ
/17ページ
次へ
この屋敷にいたからわかる。見て見ぬ振り、知らないふり、聞いてないふりは当たり前、だからこそ、違和感があった。 俺と、彼の関係は誰にも知られてはいけない秘密だ。なのに、見ず知らずの少女に軽々しく語っている。いろんなことが起こり過ぎて、頭がおかしくなったと言えばわかりやすいが、その程度で潰れるような精神を、この人が持っているわけがない。道端に石があれば、無視しないでわざと蹴り飛ばして進んで高笑いするような人だ。 他人の痛みを快楽にする。歪んだ趣味に身を投じて、踏みにじるクソみたいな人間だ。そんな人が、そう簡単に秘密を他人に話すだろうか? その違和感が、俺の意識を別の方向を向けた。旦那様の話が一区切りついて、俺の視線が、ほんの少しだけそれる。 (首を落とされた客の身体はどこに行ったんだ?」 カタカタと歯を鳴らす、生首だけ大広間にゴロゴロと転がっているが、身体はどこにもない。 ────────────ガリッと音がした。 (まさか、いや、そうだ。旦那様も被害者だと思っていたけれど、違った!!) 音のした方向に視線をむけた。そこには数人の生首を落とされた客達の身体が天井に張り付いていた。 「上だっ!!」 叫ぶと、同時に少女が上を向いた。旦那様が舌打ちするのが聞こえ、天井に張り付いた首無しの客達が少女を踏みにじろうと落下してくる。 長々と話していたのは、少女に尋ねられたから、それを利用して少女を迎撃する準備を整えた。時間稼ぎ、カタカタと生首達が歯を鳴らしていたのは、首無し達が動き回る音をかき消すための陽動。 考えをまとめながら、俺は少女に向かって跳んでいた。彼女は日本刀を持っているから首無し達を斬り殺すことも簡単かもしれないが、そんな光景は見たくない。走り出して、少女を巻き込みながら跳んだ。 ゴシャッと首無し達が、数秒遅れて落下してくる。襖を破って廊下に出た。 「どいてくれると助かるのだけど」 ムーッと唇を尖らせた、少女が俺を見つめている。緊急事態とはいえ女の子を押し倒しているのはマズいと、俺はささっと真横にずれると、少女は日本刀の鞘で迫り来る、首無し達を弾き飛ばした。 「一応、貸し借りはなしにしおく、とにかく逃げるよ」 「え、あ」 鞘に日本刀を戻しつつ、少女は俺を抱え上げて走った。軽々と抱え上げられて、首無し達が入り込めない、離れの蔵に逃げ込み、ドシャッと地面に落とされる
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加