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「はー……」
グレイは、彼の後にひたすらついてきた。大抵左斜め後ろにふわふわと浮かんでいて、彼が何かトラブルに巻き込まれるたび、とても嬉しそうに笑う。
「お前、なんで俺の近くにいる訳?」
『面白そうだからだ。我は、お前がいろいろな顔をするのが面白くてな。もっと見たいのだ。……いいか?人間とはな?』
と、急に耳元で人間とは何かについて囁き始める。それは、ひたすら人間の闇…悪い部分について、具体的な事件などと共に話すというものだ。これは、彼が寝ている間も、食事をしている時にも続けられた。
「………うるさい!ちょっと黙れよ!グチグチ言うな!」
部屋で1人の時、とうとう彼はキレた。そのままグレイに殴りかかるも、肉体の無い状態なのかすり抜けた。
『無駄だぞ?高瀬実。我等は、貴様ら人間の妄想で生まれたものだ。この世界で肉体を持つことはできない。人間が救いを求めて神を作り、天使を生んだ。そして…罪を恐れ、戒めるために我々堕天使…悪魔が生まれたのだ。長き年月により、我等の姿は固定化され、存在は大勢の人間の無意識下にある。この世界の誰もが、カケラでも知っている。それこそが、我等の姿だ。』
「天使なんていない。」
『ほら。そうやって、天使という単語が存在しているだろう?それだよ。姿はないけれど、存在する(名前のある)モノ……我等だ。他に、幽霊や魔女、吸血鬼もいるぞ?皆、世界中で楽しんでいる。』
彼は、その言葉を聞いてひどく驚いた顔をした。それを見て、グレイは笑みを深める。
『名前がある事……それこそが存在の証だ。お前にも、名前があるだろう?"人間"という種族の"高瀬実"という名前が。私にもあるのだよ。お前が付けたあだ名とは違う、正式な呼び名が。……まぁ…人間では発音が難しい故に言わぬがな。』
クスクスと笑って、質量の無い手で彼を撫でる。彼は嫌がるも、避けることはできなかった。
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