184人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ひいっ…!」
実はがむしゃらに走り、グレイの言葉にすぐに反応した。手近な大きすぎる木にしがみつき、手がボロボロになるのも構わずに登る。
「ガウッ!」
「~~~~~っ!?」
虎は大きい。木によじ登る実がいくら速かろうと、少し手を伸ばせば届いてしまいそうだ。現に今、 虎の振った爪がズボンの裾に引っかかり、少し千切れる。その感触が脳に伝わると、彼はさらに速度を上げ、ようやく1番下の枝にたどり着いた。
「ーーーっ!………はぁっ!はぁっ!」
何メートル登ったのだろうか?少し小さく見える虎は、少しの間こちらを見上げていたがやがて諦め、去っていった。
「………グレイ!ここは何処なんだ!?家に帰してくれ!あんな大きな虎、見たことないぞ!?」
『恨むなら、我という存在を生んだ人間を恨むんだな。……ここは地球ではない。我ほどの力を持っていても、来るだけで精一杯だ。帰すことはできない。』
実の顔が強張った。それもそのはず。 どこか知らない所に来たと思っていたら、地球ですらなかったのだから。…普通ではあり得ない。
「………は?地球じゃない?」
『そうだ。ここはアカラという世界。地球と似た環境にあるが、生態系が少し違う。人間もいるがかなり繁殖規模が小さく、大型の生き物が多い。先程の虎はこの辺りでは普通のサイズだ。木のサイズも大きいだろう?そして、ああいった生き物の事を魔物という。』
「……………。」
実は呆然としていた。自分の理解出来る範疇を超えている。強制的に連れてこられた場所が、今までいた場所の常識が通じない世界だ。意味が分からない。
『我の計画の最終段階に必要な手順だ。高瀬実、生き延びろよ?』
「は?生き延びる?」
『そうだ。誰も助けに来ない。自分より遥かに強大な魔物がいる。さらに、お前は1人でこんな所で生活した事がない。………さて、お前はどれだけの間、魔物に食べられないでいられるか……楽しみだ。』
実は、目の前が真っ暗になった。
最初のコメントを投稿しよう!