はじまり

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「はい、たまご粥。ここにポカリ置いておくから、ちゃんと水分摂るのよ。」 「はいはい。」 ほかほかのたまご粥を食べ、薬を飲む。額に冷感ゲルシートを貼ってもらった。 「はい、おやすみ。」 「おやすみ……」 頭をひと撫でされ、そのまま自然に眠りに堕ちた。 何か、怖いものが追いかけてくる。真っ暗闇の中、彼は全速力で何かから逃げていた。おぞましい何かが、とてつもない速度でこちらに来る事だけが分かった。 「うわぁ!?なんなんだよ!これ!?」 感じたことのない恐怖に混乱しながらも、本能的に走る身体。それは、すぐ近くまで来ていた。 「来るな!来るなああぁぁ!」 それが背中に届きそうな時、何かに一気に引き寄せられた。 「実!?大丈夫!?うなされてたわよ!?」 「母さん……?あれ?」 蛍光灯の真っ白な光が目に痛い。目の前では、彼の母親が心配そうな顔で覗き込んでいた。彼は、パチパチと瞬きを繰り返し、やっと状況を理解する。 「あんたの悲鳴が聞こえたから来てみたら、ものすごいうなされてたのよ。起きて良かったわ……」 「あ、ありがとう…?…冷たっ!」 冷感ゲルシートを額に貼られ、体温計を渡される。 「熱、測りなさい。夜になってまた上がったかもしれないから。」 「分かった。…………9度2分。」 「やっぱりね。ほら、ポカリ飲んで、お粥食べて、薬飲んで寝なさい。」 「今、腹減ってない……」 「吐き気とかは?」 「ない。」 「じゃあゼリーを持ってくるわ。待ってなさい。」 その後、すぐに果物の入ったゼリーが渡されて、薬を飲まされた。さらにトイレに行かされて、蒸しタオルが渡される。 「ありがと。」 「早く治しなさいよ。」 「うん。」 しかし、彼の発熱は1週間ほど続き、ようやく起き上がれる様になったのは、夏休みが終わってしばらくしてからだった。
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