はじまり

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彼は、思い出すのを止めると大きくため息を吐いた。 「………お祓いの日から、なんか見えるし…」 ふと、視線を宙に彷徨わせると、普通ならあり得ないものが視界に入る。灰色の長髪に真っ赤な隻眼、真っ白な肌、黄ばんだ帆布の様なもので作られた足元までの丈の長い服は、着物の様に広い袖の両端が縫い合わされて腕が出せなくなっているし、胸の真ん中は腕をうごかせないように、ふくらはぎの辺りは脚をうごかせないように、頑丈そうな黒い革のベルトで拘束されている。 そして、右目は包帯でぐるぐる巻きにされて、その上には呪文らしきものが描かれたお札、極め付けは埃の様な汚い灰色の翼だ。ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべ、彼を眺めている。 「………なんだよ、グレイ。」 『あの程度の夢で飛び起きるお前が面白くてな。もっと苦しめよ?高瀬実。』 低い、ザラザラとした声で、そう囁かれた。音量が小さいのに良く聞こえるのは、辺りがとても静かだからだ。今は夜中なのだと、そこで再び思い知る。 「……寝る。今度は変なの見せるなよ!」 『……………。』 彼がグレイと呼んだモノは、にっこりと笑うだけで返事をしなかった。寝かせるつもりはないみたいだ。
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