身代わり

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*** 「あー、もう迷ってしまって」 お土産を選んでいる間カフェで待っている彼のところに行くと、怜さんは案の定またスケッチブックに何かを描いていた。 「またずいぶん細かいものをこちゃこちゃと買ったな」 「だってどれも可愛いくてー」 「ふぅ疲れた」 と思わず口にすると、「とりあえず座ったら」 と彼は目の前の白いチェアを指差して、それからウェイターを呼んだ。 「ここのアイスココアはおいしいから」 と付け足しながら。 「怜さんはパリでは学生なのですか」   無駄だとわかっていてもやはり聞いてみたくなる。 「いや、モラトリアムしてるだけだよ」 やはり詳しいことは教えてくれそうにない。 「君は戻ってすぐ仕事なのか? 」 「ええ、まあ翌日から」 「そうか。それは大変だな」 「まあ勤め人ですから」  戻るところがあるのは幸運だとわかっていても、小さなため息が出そうになる。
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