身代わり

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エコノミーにしたのは結果的に大正解だった。 あまり混んではいなかったが、はす向かいの席に男の子3人連れのスペイン人の家族が乗ってきたのだ。 10歳くらいの子と、6歳くらいの子と、3歳くらいの子。 男の子3人とも、なかなか可愛い。10歳の子はすでにカッコいいといってもいいくらいだ。 こどもが3人もいたら、エコノミーより高いチケットは家計的にキツイよね。 下の6歳くらいの子が怜さんのギターを見るや、「弾ける? なんか弾いて!? 」 と目を輝かせた。 そこから歌うわ踊るわの大演奏会に。 いいのかこんなに騒いでと心配してあたりを見回したが、すいているからか慣れているからなのか、文句は飛んで来そうになかった。 それどころか通りがかった車掌さんまで、立ち止まって少し歌っていくありさま。 怜さんは子供の歌でまるで知らなそうな曲でも、「Canta. Dejame escuchar la melodia」(歌ってみて。メロディを聞かせて) と言って歌わせて曲のさわりを耳にすると、それだけでもうコード進行を把握して伴奏を弾き始めてしまう。 さすがだ。 「canta, senorita, canta! 」(お姉ちゃんも歌って歌って~! ) 男の子たちにせがまれて私も適当に調子を合わせて声を出す。おかげで近づくお別れの時を考えてしんみりする暇もなかった。
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