身代わり

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スペイン人の家族はマドリードに着く前に下りていった。 途端に私たちを包む静寂。 少しの気まずさとかなりの緊張感を漂わせて。 だって今口を開いたら。 寂しいとか帰りたくないとか離れたくないとか、きっと怜さんを困らせることばかり言い募ってしまいそうだからだ。 「ちょっと電話してくる」 そう言って彼は私たちのいる車両の外へ出て行った。 私に聞かれたらまずい電話なんだろうか。 iPadを開けて写真の整理を始める。 見ているだけでいろいろ思い出されてきて、もうすでに胸が詰まりそうだ。 はあー。 iPadをいったん閉じて、深いため息をつく。 私、これを日本で泣かずに整理できるのだろうか。 怜さんはまだ戻ってこない。 遅いなあ。長電話しそうな感じの人じゃないのに。 誰に電話しているんだろう。パリにいる人だろうか。
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