第1章

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「君は、優秀な検事や弁護士がいると思うかい?」 「もちろん」 「優秀とは?」 「裁判での勝率が高い人物ね。私は裁判の時は、その優秀な人物を雇うわ」 「それがそもそもの思い違いさ。裁判とは真実を追求し判断する場だ。違うか?」 「違わないわ」 「真実は常に一つ。それが真理だ。能力の優劣で真実が変わる事なんてありえない。あってはいけない。しかるに、検事や弁護士に『優秀』という冠が付くのが常識となっている現実。つまり裁判とは、真実をお互いの解釈で歪め合い、演じ合い、裁判官という名の観客に、どちらがより雄弁であったかを選ばせる演劇にすぎないのさ」 「そうかしら」 「そうさ。そして信じられない事に、すでに脚本が決まっている演劇…いや裁判も多く行われている」 「まさか」 「あるのだよ。痴漢冤罪だ」 「痴漢なら罰せられるのは当然でしょう?」 「それだよ。それなんだよ。痴漢と疑いを掛けられた時点で、裁判ではすでに有罪と脚本が決まっているんだ。真実など関係なくね。それを説明する前に、君は『100%ありえない』というものがこの世にあると思うかい?」 「もしあるとしたら、それは『100%ありえない』という事だけね」 「おっと、パラドックスの話はまた今度にしよう。今は裁判の話だ。ある冤罪を掛けられた人物が、痴漢は物理的に、位置的に不可能だという事を検証し、証明したんだ。両手の位置もきちんと確認されてね。それは実に理にかなった説明だった。結果はどうなったと思う?」 「理にかなっていたのなら無罪でしょう?」 「ところが違うんだ。『99.9%不可能な事は分かった。しかし100%不可能ではないから有罪』だそうだ」 「…意味が分からないわ」 「そうだろう?そもそも推定有罪なんて法への冒涜だ。更にこんな事を言う人もいる。『疑われた時点で、実際に傷ついた被害者がいるのだから、例えやっていなくても疑われた者は罰をうけるべき』ってね。例えれば『ムカついている時に目の前にいたから殴らせろ』と言っているようなものだ」 「さすがにそれは…今作ったのでしょう?ただの八つ当たりじゃない」
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