第1章

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「そう、真実なんて関係ない。女性が受けた被害に、誰でも良いから罰を受ける人間が必要なだけ。そして一度指名すれば、周りの者が勝手に犯罪者へと祀り上げてくれる。中世の魔女裁判と何も変わらないのさ。真実よりも法律よりも、八つ当たり感情を優先させるなど、とても法治国家のあるべき姿とは思えない」 「嫌な言い方ね。本当にやった人だっているでしょう」 「いやすまない。言いたい事は痴漢冤罪そのものじゃあないんだ。言いたい事の本質は、パッと見ただけの感情を優先させ、真実を見誤る事があってはならないという事だ。そして、裁判がいかに真実から遠い存在か」 「裁判に意味なんてないと?」 「すべてがそうとは言い切れないが、少なからず真実が追及されない案件がある事は確かだ。もう裁判の話はうんざりといった顔だな?もうしたくないだろう?俺には分かる。今度は別の角度からアプローチをしてみよう」 「別の角度?」 「そうだな…雪山だ。雪山で遭難したとしよう。2人でだ。吹雪にあい、洞窟でも、打ち捨てられた山小屋でもいい、そこに避難したとする。その時に一番必要な事はなんだ?」 「暖を取る事でしょう?」 「その通り。しかし、密閉されていない場所で火を焚いたとしても気休めにしかならないし、密閉された場所では火を焚く事自体が危険だ。なにより、燃やすものや着火するものがない事だってある。そんな時はどうする?」 「さあ?」 「知っているはずだ。お互い裸になって毛布にくるまり抱き合うんだよ。人間の身体は常に熱を発している。その身体の熱を伝え合うんだ。服を着たままでは効率が悪い。しかし知っているはずのそれを、なかなか実行に移せない。何故だ?それは人間には羞恥心があるからだ」 「裸で抱き合うって、都市伝説ではないかしら?」 「そうそう、都市伝説と羞恥心で思い出した。昔、ビルで火災が起きた時、上階にいた女性が、脱出の際、下着を穿いてない着物の裾が風でめくれるのを恥じ、ロープから片手を離してしまい、身体を支えきれずに落ちてしまったそうだ。反射的だったのだろうが、羞恥心に気を取られた為に命を失ったケースだ」 「それこそ都市伝説だと信じたいわね」
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