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「・・う・お。」
「聞こえない。」
「あ・・・お。」
「全然聞こえない。」
「・いう・・。」
「そんなんで全部言えると思ってんの。」
「お…まえ、まじで…いいか…にしろって。」
俺は今、恭介の手足を何かしらの本を手本にして、両手両足を一気に縛り上げ、口には彼女が忘れていったもこもことした可愛らしいハンカチを咥えてもらい、平仮名を言うように指示をしている。
この行為に特に意味はない。ただ何となく言わせてみたかっただけだ。俺の知らない、まだ聞いたことのない響一の口から発せられる平仮名の音を、ここで全て聞き留めておく為の手段とでも、この場では言っておこう。
「一気に“な行”まで言ってもらおうか。そうしたら、今の発言チャラにするよ。今までのことも全部ね。」
「お前どんな神経してんだ。さっき散々俺の首絞めやがって。もうちょっとで気失うとこだったんだぞ。」
「そのくらいの加減は誰だってできるよ。」
あ、ちなみに首は締めましたが、致命的な強さではないですよ。俺が好きな人を殺すなんて、そんなことするわけないじゃないですか。もし彼に、彼のマフラーで彼を殺して、残った俺はどうなるんです?一人になるじゃないですか。もし仮に僕が響一に殺される、その行為自体は喜んで受け入れます。自分の好きな相手に殺させるなんて、そんなの本望じゃないですか。最後の瞬間、俺の事を見てくれるのが響一だという事実を冥土の土産ってやつにして逝きますよ。
さあて、こんな話をしている場合ではない。俺は今から響一にしなければならない事があるんだ。
俺は全神経を集中させて響一をターゲットに当てた。今日は俺がお前を好きにしてやる。
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