第1章

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心臓がえぐりとられるような痛みにかられて我にかえる。 反射的に目覚まし時計を叩く。 必要以上に大きなアラーム音がまだ頭に響いている。 全く眠れなかったが、朝だ。 またやってしまった。 元彼のツイッターチェック。 分刻みで更新されるはずもないのに、また一晩中画面を見てしまっていた。 「twitter 田中裕也(@so-nntule)3月3日;自主性のない女は苦手。」 なんて彼がアップするはずない。 画面を念のため確認する。 やはりそんな文章は載っていない。 だってこれは会社の短期派遣プログラムでウズベキスタンに飛んだ彼が、社内広報と安否確認を兼ねて作ったアカウントなのだから。 だから敢えて実名でツイートを公開しているのだ。名前の横のso-nntule・・・ソーンツール?というのはよく分からないが、博識だった彼のこと、どうせ哲学者の名前か何かだろう。 徹夜でツイッターの画面を見つめ、最後は夢うつつで、私への、辛辣な架空のメッセージが目に飛び込んでくる。 いわゆる、妄想、いや、被害妄想。 こんなこともう何度目だろう。 まだ完全に目の覚めない頭でどうにか身支度を整え、会社へと向かう。 電車の窓に映る生気のない自分の顔。 田中裕也。27歳。付き合って2年で別れた年下の彼氏。 大好きで大好きで、毎日が本当に夢のようだった。 でも、大好きすぎて、そして不安で、そして、私は30歳で。 最後の方は尽くすのを超えてすがりついていた。 「陽子、そんなにしてくれなくて大丈夫だから。」 「陽子、無理してない?」 そんな彼の気遣いが次第に「重い」から「別れてほしい」に変わった。 決定打はニューヨーク。 彼の出張に自分は休暇をとって半ば無理矢理について行った。 初めての海外、おまけに横には英語の堪能な彼。気恥ずかしくて、レストランでは一言も英語を話せず、 「裕也、グリーンサラダ頼んでもらっていい?」 この一言で彼の顔色が変わった。 レストランを出た直後、 「何で自分で頼まないの!?中3の英語だって頼めるよ、サラダプリーズって!指さすだけでも通じるよ!陽子、俺任せすぎるよ、自主性・・・ないの!?・・・重いよ・・・」 からの、「別れてほしい」だった。 レストランの注文は単なるきっかけにすぎない。 裕也だけいればいい、裕也がいないと何もできない。 私たちは終わった。
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