第1章

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そんな彼と別れてもう二カ月、裕也は会社の短期派遣プログラムでウズベキスタンの現地の学校で教師のボランティアをしている。 もともと教員免許を持っていたというのもあるが、チャレンジ精神が旺盛な彼にとって、このような機会を会社から与えてもらったのはとてもラッキーなことだった。 きっと私と別れていなくても彼はウズベキスタンに飛んでいただろう。 それに比べて私は・・・ いつもの無限ループに入りかけた時、 「有給!!とっていいよ!!」 笑顔の課長が私の席の前にいた。 きょとんとする私。 「課長・・・?」 「だから有給!二ヵ月前、一週間くらい休みが欲しいって言ってたでしょ!あの時はさすがに繁忙期で無理だったけど、目途がたってきたから。」 「は、はぁ。」 「納期の関係で今から二か月後の時期しか無理なんだけど。」 「は、はぁ。」 男社会の社内で唯一女性で課長職に就いているヤリ手のうちの課長が最後は私の耳元で優しく小さく呟いた。 「一週間休みがとれるなんてうちの会社ではそうそうないから、旅行とか行ってきたら?というか行って来なさい・・・リフレッシュも兼ねて。」 「は、はぁ。」 呆気にとられるばかりで、遠くなる部長の後ろ姿を目を丸くして見つめる私が、部長の心遣いに気付いたのは部長が部屋を出て行った後だった。 遠く廊下から聞こえる豪快な部長の笑い声を聞いて思い出した。 二か月前、傷心の私は忙しい職場の状況もわきまえず一週間の有給を願い出ていたのだ。 当然叶うことはなかったのだが、常に厳しくも優しく指導してくださっていた課長は私の失恋に気付いていたのだろう。 今まで休暇のことを気にかけてくれていたのだ。 当の本人も有給の申請など忘れていたこの時期まで。 かくしていきなりの一週間の休みを手に入れた私はというと、 給湯室で課長と顔を合わせる度に旅行先を尋ねられ、もはや自宅でのんびりというわけにはいかなくなってきたので、半ば強制的に旅行に出かけることになったのである。 母親を台湾旅行に誘うも母の腰は重く。 親友の芳江を韓国旅行に誘うも仕事の関係でやんわり断られ。 いいもん、他にも友達いるもんねと他をあたろうとするが、考えてみると旅行に行くような間柄の友人、芳江以外にいなかった。
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