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初めての充実した内容で終えた夜の仕事。
急いで着替えて、挨拶もそこそこに足早にコンクリートの道を進む。
時間は0:30
まだ営業中。
お店から5分と掛からず到着して、昨日も開けた木の扉が目の前。
失態を思い出して変な緊張が走る。
倉坂さんは普通に接してくれるだろうか…。
困った顔されたらどうしよう…。
勢いが萎みそうになって止めておこうかなと考えたけど、早めに行かないと私はもう行けなくなる気がする。
入り口前で佇んでいても不審者みたいだし、よし。入ろう。
ふっと息を吸い込んで繊細なラインを描く黒いドアノブに手を掛けた。
チリンッと昨日も聞いた鈴の音が響いて、ゆっくりドアを引いた。
「……いらっしゃいませ」
「あ、こんばんわ。」
「あー、真実(まこと)ちゃんいらっしゃい。」
カウンターから出てきた倉坂さん。
にこやかに呼ばれて胸がキュンとした。
あれ?
私、名前で呼ばれてたっけ?
確かに昨日盛り上がったけど…
抜け落ちた記憶のどこかに?
あれ?
動揺で落ち着かない私を変に思ったのか、倉坂さんが手を差し出してきた。
「続けてきてくれて嬉しいよ。荷物預かるね。」
「あ。はい、ありがとうございます。」
バッグを渡すとき、手提げ部分を持とうとしてくれた倉坂さんの指が軽く触れた。
それだけなのに、私の体はピクリと反応する。
「き、昨日はだいぶ酔っ払っちゃって、すみません。
途中記憶が抜けてて、ご迷惑かけませんでした?」
「え?全然。みんな楽しんでたよ。盛り上がりすぎて帰るの遅くなったしね(笑)」
にこやかに笑って言う倉坂さんの表情は嘘ではなさそうだ。
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