それだけ?それとも…。

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まだこの教室で、国語の授業を受けてる方がマシだわ。 山本に比べたら全然いい。 おじいちゃん先生でグチグチ言ってちゃいけない。 「頑張ろっかな…」 ふぁ、と軽く欠伸をして、 仕方なく視線を黒板に戻そうとした時、 一瞬アイツが見えたような気がして、俺はまた視線を窓の外に向けた。 「(見ーっけ)」 大柄な男子の中に一人だけ小さいのが混ざっているせいでやたら目立っているソイツは、隣のクラスの由之原俊太で学年一のおチビちゃん。 そして、俺のお気に入り。 ぴょんぴょんと跳ねて動く姿は、ウサギみたいで可愛くて。 思わず頬が緩む。 この時間って、俊太は体育だったんだな。 ついこの間席替えをして、この窓側の席に来ることができたから。 席替えを提案した奴に感謝しなきゃ。   「(うはっ、可愛い)」 自分の兄貴からお下がりでもらったという体操服はぶかぶかで、それがまたたまらなく可愛い。 お父さんのシャツ着た小学生的な? でもさ、鎖骨完全に見えてるだろアレは。 見る度に噛み付きたいなんて考えてしまう鎖骨を、惜しみなく出してて。 もういい加減に新しい体操服を買ってもらえばいいのに。 俺以外の奴が見ていると思うとイライラする。 さっき頑張ろっかなって決めたばかりなのに、俊太のせいでその決意もあっけなく崩れ。 「(うあ、誰だよアイツ)」 俊太の髪をくしゃくしゃにする奴を意味もなく睨んでみたり。 俊太、お前は誰にでも懐くのかと拗ねてみたり。 俺にはもう、おじいちゃん先生の授業を聞いてる余裕なんてこれっぽっちもなかった。
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