第1章

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心の中でガッツポーズをする。これだけで、祝福された、満ち足りた一日になる気がするから不思議だ。 僕はお父さんに笑顔を向ける。 お父さんは頷いて「よかったな」と言う。僕は「うん」と頷く。 お父さんは最近、機嫌が良かった。1週間も先なのに、自分に誕生日プレゼントだと言って、車を買っていた。 赤い車だった。僕は車にはあまり興味がなかったけど、お父さんの車がカッコイイことは分かった。 誕生日にはその車でドライブに行くことになっていた。 占いが終わると、まもなく朝ごはんだ。 お姉ちゃんがバタバタ音を立てながらしながら降りてくる。 「今日、朝練だった!もう行く!」 押取り刀で出て行くお姉ちゃんをお父さんは一喝した。 「ちゃんと朝ごはんは食べていきなさい!」 「そんな時間無いの!」 お父さんはお姉ちゃんの話を聞かない。それ以上の口答えは許さない、というのが空気で分かった。 お姉ちゃんは「最っ低!」と言いながら座った。 家族4人で「いただきます」。言うが早いか、お姉ちゃんは皿にあったパンを加えて出て行った。 お父さんは「まったく」と独り言を言って、お母さんが「まあまあ」となだめる。 僕はそれを朝食のパンを齧りながら聞いている。 イチゴジャムの甘さが口に広がる。多分お姉ちゃんは間に合うんだろうな、と思った。 次の日も、僕は朝食を待ちながら、テレビを見ていた。 いつもと違うのは、今日はお父さんがもう仕事に行ってしまうことだった。 玄関でお母さんと話している。 「時間がないから、もう行くよ。先方しだいでは今日は帰れないかもしれない。メールするよ」 「わかったわ、いってらっしゃい」 扉を素早く開けられる音と、ゆっくり締まる音がする。エンジンが掛けられ、発進していく音が聞こえた。 その音に紛れて、お母さんの溜め息が聞こえたような気がした。大人の世界は難しいだな、と思う。 視線をテレビに戻すと、いつもの占いが始まった。 11位から9位。天秤座無し。少し安心。 8位から6位。天秤座無し。ちょっと期待できる。 5位から2位。天秤座無し。水瓶座が4位だった。気分転換に出かけると吉。 「水瓶座4位だって。気分転換に出かけるといいらしいよ」 「あらほんと、じゃあ今日はお出かけしちゃおうかしら」 母の声はいつもどおりで、僕はちょっと安心した。 「1位と12位の発表です!」いつもの台詞に、ドキドキが最高潮になる。
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