今そこにある危機

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「それじゃ、バイバイ」  駅前に出ると彼女に手を振り別れた。俺たちはそれぞれ反対方向へと歩き始める。  数メートル進んでから、ふと足を止めた。何かが気になったからだ。  胸騒ぎを抑えて振り返る。彼女はこちらに気づくことなく足早に歩いていた。だがその後ろ姿はどこかしら不安に駆られているようにも見えた。  それを目にした俺は急に考えを改めた。慌てて彼女のあとを追いかける。 「やっぱ、送るよ。時間も時間だし」  言いながら腕時計を見る。すでに日付は変わっていた。 「家が近いからって、油断しちゃだめだもんな。ほら、最近いろいろと物騒じゃん。すれ違った男にいきなり刺されたり、通りすがりのやつにいきなり殴られたり、毎日のようにニュースでやってるもんね。今の時代、用心しすぎるくらいがちょうどいいんだよ。人を見たら泥棒と思えって言葉があるけど、まさしくその通りなんだ。何かあってからじゃ遅いもんね。  俺はさ、後悔したくないわけよ。もしも君に何かあったらさ、あの時、ちゃんと家まで送り届けておけばよかった……って、一生悔やむと思うんだ。それならさ、何も起こらなくたって、家まで送り届けたほうがいいだろ?行動を起こしたほうが後悔は少ないって言うし。  別に遠回りになることなんか気にしなくてもいいんだ。深夜の散歩だと思えばいいんだから。男なら一人でも襲われることはまずないしね。金目当てって輩もいるかもしれないけど、俺のことよく見てよ。俺が金を持ってるようには見えないだろ。絶対襲わないって。襲うなら、もっと金持ってそうなオッサンを狙うよ。一時期流行ったじゃん、オヤジ狩り。  だいたいさ、俺は少し歩いたほうがいいんだよ。普段、スポーツなんてやんないから、運動不足気味だもん。あ、君は大丈夫だよね。週3回、ちゃんとスポーツジムに通って汗を流しているからさ。俺もジョギングか何か始めようかな……って、絶対三日坊主になるよね、俺。  ああ、坊主といえばさ、この前、坊主頭の奴と一緒に歩いてたでしょ。あれ、高校の同窓生だよね。前に俺、君のアルバムで見たことあるもん。でも、確か学生の時は坊主頭じゃなかったような気がするけど……もしかしてそいつ、何かやらかしたとか?その罰で坊主になったとか?
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