第1章

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 地方都市に住むF氏が妻とともに、日課となったウォーキングをしている時だった。前方の路上に黒い何かが群れていた。 「あれ、なにかしら?」  妻の言葉とともに二人が近寄ると、そこにいたのは数羽のカラスだった。人の気配を察知したカラスはふわりと空へ舞い上がる。その後には猫の死骸が残されていた。どうやら車に轢かれたようだ。  F氏は猫の死骸から、街路樹の上で様子を伺っているカラスの群れへと視線を移しながら、 「そう言えば、最近この辺りにもカラスが増えてきたよな」 「そうよね。都会のほうじゃずいぶん前から問題になっているみたいだけど」  二人はそう言いながら猫の死骸を横目に通り過ぎる。すると後方ではカラスが一羽二羽と再び猫の死骸に群がり始めた。 「カラスと言えばさ、カラスに寄生する虫が新しく発見されたの、知ってる?」 「知らないわよ。カラスの寄生虫なんて」  妻は嫌悪感丸出しの顔で夫を睨む。 「そんな顔せずに。まあ聞きなよ」  まるで捕まえたカエルでも自慢する子供のように、F氏は嬉々とした表情で妻に話す。 「この寄生虫ってのが面白いんだ。そいつにとってはカラスの体が一番棲みやすい環境なんだけどさ、時々糞と一緒に体の外に排出されてしまうらしいんだ」 「じゃあ死んじゃうじゃない」  話の腰を折る妻にいやな顔ひとつ見せず、F氏は話し続ける。 「いやいや、そう簡単には死なないのさ。そいつはカラスの体の外に出てからもしばらくは生きながらえるんだ。そうして、近くを通りかかった犬や猫から始まってネズミやタヌキまで、色々な他の動物の体に寄生するんだ」 「じゃあカラスだけに寄生するわけじゃないのね」 「そうは言っても、それはあくまでも仮の棲み処だ。そいつは犬や猫なんかよりもカラスの体の方がずっと棲みやすいんだ。だから寄生虫は何とかしてカラスの体に戻ろうとする」 「どうやって?」  と眉根を寄せる妻に、F氏は人差し指で自分の頭を小突いてみせると、 「犬や猫の脳に寄生するんだ」 「え?まさか操るの?」  瞠目して驚く妻に、F氏は「いやいや……」と手を振って見せてから、
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