第1章

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「さすがに操るところまではいかないんだ。ただね、そいつに寄生された犬や猫は、なぜか恐怖心を感じなくなったり、警戒心がなくなったりして、破滅的な行動をとるようになるんだ。つまり、自らを死に至らしめるような行動をとるようになる」 「え?死んじゃったらその寄生虫にも都合が悪いんじゃないの?」 「そうでもないんだ。ほら、さっきも見ただろう?猫の死骸を。そして、それに群がるカラスの群れを」  F氏の言葉に、妻は合点がいったという風に「あぁ……」と言って目を丸めた。      その表情に満足げに肯いたF氏は、 「そう。つまりカラスは死肉を漁る習性があるんだ。だからその寄生虫は寄生した犬や猫が死ぬことで、再びカラスの体に戻れる可能性が出るってことさ」 「なるほど。うまくできているわね……」  そう言って感心していた妻が、不意に前方に目を向けると、 「ん?あれ、どうしたのかしら」  前方に見えるマンションの前に人だかりができていた。二人はそこに近寄ると、集まっていた中の一人に何事かと尋ねてみる。すると、どうやらそのマンションで飛び降り自殺が起きたらしいことが判明した。 「自殺か……」 そう言ってF氏はマンションの最上階を見上げながら、 「そう言えばさ、最近このあたりで自殺も増えてきたよな……」  F氏の言葉に、「カァ」とどこかでカラスの声が応えた。
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