第1章

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ジュペリ男爵は背徳の美少年である。といっても実態は、しがない喫茶店の三十路マスターだ。男爵の由来は知らないが、ジュペリは店名からだろう。店の真ん前にある市立高校の教師御用達になっていたりして、生徒はほとんど足を踏み入れることはない。学生だからという理由ではなく、マスターは男色だという噂があるからだ。女子学生は少数、来店する。アルバイト学生を除外して、男子学生は全く来店しない。噂の真相は定かではないが、全くのデマではないと思う。根拠は経験、ではなく現場を見たからだ。仕事場は三階建物の一階にある。二階は事務所なのか倉庫なのかよくわからないのだが、マスターが男子学生を連れ込んでいるのを以前、目撃した。同じ高校の男ではないが見覚えがあったので、地元住人かもしれない。マスターと目が合って牽制された為、顛末までは見ていない。無駄に整った顔をしているので、色々と怖い。三階にある古本屋店長は喫茶店の常連だ。今もカウンターで抹茶ミルクを呑んでいる。その隣には同じく常連の市立高校の教師が座っていて、そのまた隣には調査事務所所長だという男が座っている。共に玉露の湯呑みを両手で支えており、仲良く丸まった背中が、縁側の茶飲み友だちかっていう和みっぷりである。古本屋店長は中年親爺だから由とするが、教師も所長もマスターと同年代である。しかも教師は妻帯者だ。アルバイト学生の義兄でもある。因みにマスターとの仲を疑った代償として、義弟は喫茶店で使役させられていた。所長は調査事務所でも事務員に茶を淹れてもらっては窓際で、背中を丸めているらしい。狼、否、弧狸の類いに振り回される身内の苦労を常々、考えるのである。
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