序章

7/13

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/168ページ
「ん~、見してみ?どれどれ……ん、大丈夫!無傷だよ!」 「~~~~!」  エルセが肩まで伸びる空色の髪を掴み、アピールする。すると、にかっと笑って答えた。 「あっはは、分かってるよ。大丈夫、髪は切れてるだけ。ちゃんとまた生えてくるって」  ばす、と彼女の手が頭を叩いた。 「…………」  はふ、と安心のため息を吐いた。 「???」  彼女が肩に担ぐ箒を指差し、自分の頭の上で手を左右に動かす。何が起こったのかを聞いているのだ。 「ああ、虫がいてさ。なんだか妙にでかくって、それでアネキがびっくりしちゃって、追い払えって言われて。んでまあいっそ叩きのめしてやろうかと、こう、ね」  で、扉の前でフルスイングか。そんなことで代わりに自分が叩きのめされたらたまらないなと思いつつ、苦笑い。 「ま、どっか行っちゃったみたいだし、もう大丈夫でしょ。悪かったね朝っぱらから。あたしは仕事に戻るね~」  ひらひらと手を振って、侍女ルゥカ・ルンがその場から去っていった。  手を振り返して彼女を見送ると、エルセは開けっぱなしだった扉を閉めて、バスケットを引っ掴んだ。  ――あ!落っことしたんだっけ!  慌てて、買ってきた新鮮な野菜をチェック。かなりの重量だ。この重さで硬い石材の床にぶつけたら、場合によっては粉砕だろう。  せっかくの早起きと主婦の戦場での努力が無駄になるのは勘弁願いたい。  ややあって、その場から声のないため息が聞こえてきた。どうやら大丈夫のようだ。  そのまま彼女は重いバスケットを持って、食堂へと駆けていった。
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加