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早朝の仕事を終えたエルセは、疲れを気にせず、とある一室に向かっていた。
この屋敷の主、ディオス・ロイ・アーベルヴァイン男爵の寝室だ。
エルセ・サフォーリオンが仕える青年で、もっとも尊敬し、全霊をかけて尽くそうと決めた相手だ。屋敷や、町の人々からはディー様、ディー男爵様と呼ばれている。
彼の部屋のドアを静かに静かに開けると、その部屋は薄暗かった。分厚いカーテンが朝日の光を遮断している。ということは、彼はまだ起きていない。彼は朝起きると必ず窓のカーテンを開ける。そして自分でベッドを整えて、エルセを探して屋敷を歩きまわるのだから。
その通り、彼はベッドの上でぐっすり眠っていた。
エルセは中に入り、ドアを閉めると、まずはカーテンを一気に全開にした。
部屋が明るくなる。雲ひとつない晴天が窓から望めた。
振り返る。青い目がディー男爵の黒い髪を、安らかな寝顔を見た。
――これは、特権だよね。
こんな顔を見られるのは、専属侍女として毎日世話をしている自分と、将来彼の妻となる幸運な女性の二人だろう。
彼に妻ができるまでは、このシチュエーションを独占してやろう。
密かにそんなことを考えつつ、続いてエルセは男爵の身体を揺らし始めた。
「っ、っ、っ」
両手でディーの身体を揺らす。縦に、横に、時に優しく叩きながら。
声は、まったく出ない。それでもいい。ぐい、ぐいと揺さぶり、心の中で起きて、起きてと叫ぶ。
彼にはそれで、伝わるような気がする。
やがて、彼の目がうっすらと開いた。
「むぅ、もう朝か。おはよう、エルセ」
ぱあっとエルセの顔が明るくなった。
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