第1章 偶然でも運命でも、出逢った事実は変わらない

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 北の大国、ジェリンエルニカ国―。  雪融けには蕾が綻び、薄桃色の花弁が鮮やかに空を舞って、極北の地に春の訪れを告げる。夏の風は、涼しいが穏やかで過ごしやすい。秋の山々は色とりどりに染まり行き、冬は輝くような純白が大地を覆う。  国々を渡り歩く吟遊詩人が、大陸一美しいと謳う国。  他国との交易も盛んで、治安も悪くない。  そんなこの国には、この年16歳を迎える姫君がいた。 「では、後は当人同志でお話をされては?」 「おお、おお、それがいいですとも。」  広い王宮内にあてがわれた一室。他国の王族や遣いをもてなす為に作られた豪奢な応接間で話は進められていた。  その中にはこの国の大臣、隣国の大臣に世話役、女官や従者達がいた。何の集まりかと言えば年頃の王族の、将来の伴侶を探す重要な行事。  簡単に言えば『お見合い』である。 「わたくしも、そのほうがいいですわ。」  蜂蜜色の綺麗な長い金髪、薄紅の頬。すっと通った鼻筋に桜色の唇、バランスの取れた完璧な身体。そして人を引きつけて離さない強い光を宿した黄金色の瞳。他国でも絶世の美女とうたわれるこの国の姫君、ルヴィ・ハインツ・ジェリンエルニカは咲き染めの薔薇のような慎ましやかな微笑みを浮かべて恥ずかしげに言った。 「その……、ヴァンレイド殿下さえ、よろしければですけれども。」 「かまいません、私も姫とゆっくりお話をしてみたいですから。」  対するは、男性。その声と壮麗な顔つき、表情や仕草に控えていた侍女や従者達は目を奪われる。  姫君とは対象的な銀の短髪、澄んだ碧色の瞳。鍛え上げられたしなやかな筋肉のついた長身。ジェリンエルニカの隣国、アース国第4王子ヴァンレイド・イル・ジ・アース。  2人が並ぶとまるで対になっている宝石のように美しく、その場にいた従者、女官、大臣達は感嘆の溜息をついた。 「そうですか、それでしたら私達はこれで退室させていただきます。」  大臣達がぞろぞろと連れ立って出ていくのを見送りながら、ルヴィは柔らかく微笑んだ。 「殿下、この城の庭は、今の時期は薔薇が盛んでとても綺麗ですのよ。よろしけ れば、外のテラスへ参りましょう。ご案内いたします。」
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