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庭に出ると、華やかで甘い薔薇の香りに包まれた。
「ああ、これは見事ですね。」
「ええ、私の好きな花なので庭師が力を入れているのですわ。」
ルヴィはそう言うと、中庭にあるベンチへとヴァンレイドを案内し、静かに腰掛ける。
「あの、実は不躾で申し訳ないのですが、わたくし、殿下に折り入ってお願いが ありますの。」
「姫から、私にですか?どのような事でしょう。せっかくのご縁ですから、出来 得る限りお力添えいたしますよ。」
「まあ、それを聞いて安心いたしました。ありがとうございます。」
「それで、何をすればいいのですか。」
「実は……わたくしとの婚約を、断っていただきたいのです。」
「はっ?」
「今回の縁談は、両親と大臣達が進めたもの。王族の務めと思い、甘んじて受け 入れようと思っておりましたが……やはり自分の気持ちに嘘はつけませんで した。殿下は素敵な御方ですが、わたくしはまだ結婚をする気はありませ ん。」
そういってルヴィはいっそ傲慢なほど美しい微笑みを浮かべて言った。
「ですから、どうか殿下から、至らない姫であったと此度の縁談を断っていただ きたいのです。」
ルヴィの話を、ぼんやりと聞いていたヴァンレイドはつぶやいた。
「はっ、バカみたいじゃんオレ。」
鼻で嘲笑すると、ヴァンレイドは様子を一変させる。
「ヴァ……ン……レイド様?」
「姫さんが美人だっつーから、わざわざ来たのに。意味ねぇじゃんか、った く。」
「えっ、あ、あの……。」
「ああ、がっかりしたか?こっちが地だから、オレ。ま、お姫様には信じらん ねぇかもしれないけどな。」
そう言い放つヴァンレイドは、どこか寂しげだった。
「それで、その、わたくしとの縁談は……。」
「あー、ハイハイ、わかった。断ってやるよ。でも、せっかく隣国まできたこと だし、タダじゃな。」
「何がお望みですか?」
「ふーん、物分かりのいいお姫様だね。そーだなぁ、オレ様、第4王子だから公 約とかには興味ないし。金もそれなりにあるしね。やっぱりお姫様美人だし、 好みだし、みすみす帰るのもイヤだから。じゃ、ちゅーさして?」
「はっ?」
「いーじゃん、別に。減らないし。」
「っ!?」
いきなり力強い腕に体を引き寄せられ、態勢を崩す。ルヴィの蜂蜜色の金髪が風に流れる。
「ね、いい取引でしょ。」
そういうとヴァンレイドは姫君に口づけようと顔を近付けた。
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