8人が本棚に入れています
本棚に追加
空はあいにく、灰色の雲が大勢を占めていた。
東北の春は遅いとはいえ、四月の初めにしてはずいぶんと肌寒い。
加えて、時折、海から吹きつける風はたっぷりと冷気を孕んでおり、体感温度をさらに下げる。
――やっぱり、冬物のコートにすればよかったかも。
私は少し後悔しながら身を縮こまらせ、古びた水族館の入り口を抜ける。
水族館は平日の昼間にもかかわらず、なかなかの賑わいだった。
たぶん、近々閉館してしまうからその前に……という人も多いのだろう。
かくいう私もその一人なのだけど。
「せっかく震災も乗り越えたのに……」
津波は何とか耐えたが、老朽化の波には勝てなかったという事か。
なんにせよ、小さい頃から馴染みの場所がなくなってしまうのは、やはり寂しい。
私は小さくため息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!