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ーーーーここは、はじまりの森。
全ての生命はこの森の泉から生まれ、女神に導かれやがてこの世界での役割と名を与えられるのだ。
ちゃぷん………っ
泉の水面が、揺れる。
それは『生命』が誕生した合図であり、形作られたそれは、佇む女神の前へと姿を現す。
「………まぁ。」
泉から生まれた『生命』は芝生へと手をつき、はじめて地面に足をつけた。
焦げた茶色の長い髪から、雫が滴り落ちる。そしてゆっくりと開かれた二つの瞳は、女神を視界に入れ認識した。
「おはようございます……気分はいかがですか?」
「……。」
生まれたままの姿の『生命』は、ボケーっとしたまま女神を見つめる。本来ならば、『生命』はみな生まれた時点で知性を目覚めさせ、女神の問い掛けに答えるのだが、この『生命』は口を動かそうとしない。
「……私の声が、聴こえますか?」
「……。」
再び問うが、『生命』は答えない。まさか、この『生命』の誕生の際になにか良くないことでもあったのだろうか。徐々に不安な面持ちになる女神は、刺激しないように『生命』の前で膝をつくと、そっと肩に触れた。
「一体、どうしたのですか…?」
「……ぃ…」
「え……?」
すると、『生命』の口から小さな音が漏れる。女神は耳を済ませ、その『生命』の声を聴いた。
「やっべー………すんごい美人さんだぁ」
「…………」
「あ。すんませんなんかジロジロ見て。そして見苦しい汚姿でサーセン」
「………いえ。何も着ない姿で生まれ落ちるのは普通ですから、大丈夫ですよ。」
表情を変えず、いきなり饒舌に語りだす『生命』に若干の戸惑いを覚える女神だが、とりあえず喋れないわけではなかったので、何よりとすることにした。
「……この世界へようこそ。『生命』よ。私はこの世界の、『生命』のはじまりを管理する者……私は今から貴方に、この世界で生きていくための、役割と名を与えることになっています。」
「『ニート』で名前は『よし子』で。」
「………」
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