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 そう、今日はお祭りだ。ここ、レ・ディールの毎年恒例の行事、潮祭り。年に一度いつもお世話になっている海に感謝の意を捧げ、同時にさらなる発展を唱える大きな祭りだ。レ・ディールはアルカリア大陸随一の大都市であり、自然と近代化が交差したとても快適な街だ。そして常に海に接しているこの都市は、その海があってこその発展だった。そのためこうして毎年祭りを開催しているのだ。  ファイとゼータは街の離れの丘の上にきていた。そこには小さな森が広がっていて、街全体を見渡せるようになっている。ファイは一昨日一人散策でここにきて、中でも一際見晴らしの良さそうなこの大樹を見つけたというわけだ。  音楽が一瞬止まり、また新しい曲の演奏が始まった。人々の拍手と歓声が交差して賑やかな雰囲気が風を通して二人の肌にも触れる。例え遠目であったとしても、ファイとゼータも祭りを楽しむ一員であることにはなんら変わりなかった。 「ああ、何か食べたいなー」  ファイが足をぶらつかせながら願望を放つ。彼の瞳は遠くに見える華やかな屋台を映していた。 「駄目だよ。今日使ったら今までの努力の意味がないよ」 「分かってるって」  ゼータが肩を竦め、ファイが肩を落とす。揃って憂鬱な溜息を吐いた。  二人が今までしてきた努力、それはお金を貯めることだ。『いつか旅に出たい』ーーそんな大きな夢を持つまだ幼い彼らにはお金が必要だった。交通費、食費、衣服費など、旅には莫大なお金が必要だ。そのため彼らは三年前から少しずつ、手に入れたお金は使わずに貯金してきた。ファイは散策によって拾った品々を売り飛ばし、ゼータは教会の仕事を自主的に手伝ったりしてめげず、貯めてきた。そして願望はもうすぐ叶いそう、という状況だった。こんな所で誘惑に負けるわけにはいかない。 「ここは我慢。俺だってそこまで馬鹿じゃない」  頑として言い張るとファイは屋台から目を逸らし、一生懸命大通りを歩く楽器を演奏する人達に移した。ちょうど横笛を演奏する集団が通過する所だった。  集団を見ながらゼータが呟く。 「いつか僕達はこの街を出るんだ。そうしたらこの祭りを見るのも今日が最後かもしれない・・・・・・」  どこか遠い目をした彼にファイも首肯する。 「そうだな。最後かもな」  しかし彼の瞳はゼータと違って鋭い。まるで真っ直ぐと未来を見据えているようだった。 「でも」  ファイがゼータを見る。
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